ep8. 北へ、北へ、行けるところまで

ep8. 北へ行けるところまで

この時の私は海外へ行くほどの気力がなかった。文化やルールの違いから、色々な準備や対応に追われるからだ。気を落ち着かせたかった私は、日本国内で、できるだけ実家から遠く離れたところへ行こう、そう思って、できるだけ、遠く、日本最北端の、北海道の、さらに端まで、と、礼文島に来た。

本州でビジネスプロジェクトを中断した私だが、まだ、一人でやりたいことが頭に浮かんでいた。そこで気持ちも落ち着けば、アイデアは斬新ではあるが成功できるのではないかと思っていた。しかし、島にいる間、他のことに気を取られ、結局することをしなかった。、、、まだできるタイミングではなかったのかもしれない。

来て1か月も経たないある日、私はハイキングをしていた。その帰り道、その島で声をかけられ、少しの間住み込みで働くことにした。しかし住み込みで自分が食べたいものが食べられず、魅力を感じない部屋で暮らすことに、すぐに限界を感じた。精神的肉体的ストレスが大きく、続けられる仕事に出会ったことがない気がして、再びこれからどうしようという不安が募る。しかしとりあえずは、北海道の本島で、続けられそうに思う仕事が次に決まっていたので、もともと短期の約束だったこの仕事の不安からは逃げた。

島での最終日、島にいる人達から熱い見送りを受け、本島に移動した。

―耐えられなくて、他にやることで気を紛らわせる。

耐えられなくて、できなかったことに気づかぬふりする。

耐えられなくて、自分が人と比べて有能だと思い込みたい。

そんなことを繰り返しているんだ。自分の価値を疑い、価値がないことを前提に、信じたくないことを信じようとして、悲しくなる。―

また次の仕事も住み込みだった。本当はアパートに住める予定だった。しかし急遽住み込みでこっちに住んでほしいとぼろぼろの一軒家を紹介されて、断れなかったのだ。私は運が悪いだけなのか、それとも悪いところを選んでいるのか。

そのあと燃料費や、他のことでもお金が必要になる事が多く、仕事を何個も掛け持ちした。それでもお金に余裕がなかった。

しばらくして、主軸としてやっていた仕事の効率の悪さが目につくようになった。社長とはコミュニケーションが取れなくて、意味のない作業を任される毎日に、このまま働くべきか悩んでいた。そんな時、その働いていたところで事故があり、私は急にクビになった。正確に言うと、雇用契約もあってか1か月後契約終了となった。

社長の態度に、私は内心すごく怒っていた。ここで定住する気で仕事をして生活環境を整えた。引っ越しにもお金がかかっている。悲しみが押し寄せてきた。連絡がきても取りたくない、と思った。するとその日から、携帯の画面がつかなくなった。修理店に行くと、部品がなく取り寄せても時間がかかる、と、修理ができなかった。

仕事は終わりが見えているのに1か月もそこにいる意味がなく、社長の合意もあってわたしはすぐにそこを辞めた。そうして予定が決まって気持ちも落ち着くと、自然に携帯が直った。

仕事は、他に掛け持ちしていたところがあったので、続けて働くことはできたが、未来の見えない仕事に感じて、アパートに高い初期費用を払って、高い燃料費が必要な寒い地域での暮らしを続けることを想像して、希望が見えなかった。私は、また違うことをしよう、と次の計画を思いついて、再び実家に帰ることにした。

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