ep5. 車中泊の旅
軽自動車にソロ用のテントや調理道具、車中泊用の荷物などを積んで、車中泊の旅に出かけた。
まだ暑い、夏の終わりだった。
料理に使おうと持って行ったバッテリーが、調理用の電化製品を動かすのに十分でなく使えず、ソロ用のキャンプ調理道具だけで、出来る料理は限られた。添加物の入った外食で食べられるものはあまりない。さらに、車内は狭く、寝るとき完全に体を真っ直ぐにできる、というわけではなかった。車内は太陽が昇れば熱く、寝ていられない。毎日、無料のキャンプ場か、車で泊まれる場所を探すのが大変で、オンラインの仕事もしながら、宿泊予定地に着くと、辺りは暗くなってしまっていることが多かった。旅を続けるほど、体力は削られていった。
ある日、無料でキャンプできる山の中の公園に泊まることにした。
市が管理しているところで、事前に予約の電話を入れた。
「一人で泊まるんですか?辺りには人が住んでいないんです。テント泊でなく、車から出ない方がいいと思います。気を付けて。」と、すごく心配している様だった。
車を走らせ、最後に見た明かりの灯った道の駅から、山を何個も越えた。何時間経っただろうか。雰囲気がどんどん悪く、暗くなっていく。
宿泊地の手前で、一軒の明かりのついた家を見つけた。・・・辺りには人が住んでいないのではなかったか?
そこからすぐに、雰囲気が凄まじく悪いのを感じ、そして、‘感じる’を通り越し、見えた。鎧に身を包んだ兵士の上半身が、敵も味方も分からなくなって正気を失い襲ってくるかのように追ってきた。私はUターンすることもできず、そのまま車を走らせ目的地にまで着いた。
引き返そうか悩んだが、そこから最後に見た明かりの灯った道の駅まで2時間かかる。もう深夜で体が疲れ切っていたので、再び運転するのも危ないと判断し、とりあえず休むことにした。
車を止めていると車が変な音を出し始めた。私は霊に殺されるかもしれない恐怖で心臓がバクバクしていた。霊よりも肉体がある私の方がきっと強い、そう思い込み、2時間ほど車の中で休んだ。夜中の2時、私は目を覚まし、体力がある程度回復したのを感じた。再び元の道へ車を走らせた。道の駅までたどり着き一安心し、日が昇るまでそこで休んだ。
後に調べると、その公園のある山は昔、戦場だったらしい。あの鎧兜に身を包んだ彼は、まるで戦いが終わった今でも戦い続けているようだった。
その出来事以降、テントより安全で手軽な車中泊になることが増えていった。そして、旅を続ければ続けるほど、体力が削られていき、移動せず休む時間が長くなっていった。
精神的にも、この旅をいつまで続けようか、家に帰ろうか、葛藤が始まった。
移住するのに最適な場所を見つけたい、と思い、始めた旅で、中部地方の自然や山をメインに訪れたが、そんな山の中には居住用の土地は少なく、外国も視野に入っていないわけではない私からすると、ベストな場所、というのは見つからなかった。
それでも、旅中には色々な人、特に都会から自然の多い地域に来た登山者や、移住者たちと出会った。それまで日本のアルバイト先で出会った人たちよりも、固定概念や ‘できない意識’ が少ない人たちだった。怖い経験もあったが、自然を見たり、人と出会って、車中泊はリフレッシュにもいい経験にも感じた。
新潟県にまでたどり着いた。もっと北に上ろうか?迷ったが、岐路に着くことを選んだ。疲れが酷かったのだろう、家に戻り、長い間寝た。
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