ep9. 詐欺師の彼
北海道で出費が多かった理由、それはもちろん、冬に古いぼろ家で燃料費が必要だったこと、仕事の掛け持ちで働く時間の効率が悪かったこと、また引っ越したばかりで冬服や雑費の費用がかかったこと、などがあるが、もう一つの理由は、新しく出来た彼氏が詐欺師だったからだ。
「彼との出会い」
彼とは北海道に来てからインターネットで知り合った。彼も私と一緒で他県から働きに来た人だった。電話で話をしていると変わった話でも共感でき打ち解けあえて、話も面白く、魅力のある人だった。彼と話せると私は色々な不安が和らいで助けられていた部分があった。
彼は始めの方はすごく恋愛に積極的だった。私たちは会ってもいないのに、付き合う前提で話をされたこともあった。それは何故かと聞くと、顔じゃないからとか、誠実そうな答えが返ってきた。
彼の家は北海道にあったが遠かったので、彼の家に数日泊まりに行く計画を立てた。初めて実際に対面した時、彼は仕事があるから、と夕食を作るのに、5000円渡してくれた。そして、それで私は買い物に行き、彼と自分の夕飯を作った。おいしくて健康的だと喜ばれた。私がおつりを渡すと彼は受け取らずにまたそれで作ってくれ、と言った。
いきなりお金を渡してくれて、家に泊めてくれて、彼は私を信頼して、尽くしてくれる優しい部分があるんだな、と感じた。
そしてその日、彼から告白され、付き合うことにした。
しかし彼の家に泊まった次の日、事前に彼の予定を確認したのにも関わらず、彼はずっと仕事だと行って家にいなかった。
私には理解ができなかった。私はせっかく遠いところまで来ているのだから、と、一人で観光に出かけた。その日は、以前礼文島で知り合った人たちが、付近に居て、私を遊びに誘ってくれたので、その人たちと観光した。
私は、前日のように彼はまだ家に帰らないだろうと思い、その人たちとまだ出かけてるねと連絡した。すると、だめだ、と、拗ねているのか怒っているのか分からない態度を取られ、私は途中で帰ることにした。
その日は彼が少し先に帰っていたようで、怒っていた。私はなんだかかわいいな、必要とされてうれしい、という感情を持った。
その夜、夕飯の買い物に行こうと彼を誘った。彼は車を持っていて、外は雨が降っていた。そんな状況で、彼は私に付いてこなかった。もし私なら、車で送っていくだろうし、疲れていても限られた短い時間を一緒にいれるよう努力するだろう。
その時は、彼は仕事で疲れているのかな?と、めげない私は、一人で雨の中歩いて買いに行った。
結局泊まっている間、一度も彼と外に出かけることはなかった。かろうじて、私が外を観光しているとき、仕事終わりに合わせて家まで乗せて帰ってくれたことが一度あるだけ。。。
最終日、私は駅まで大きな荷物を何個も持って移動する必要があった。彼は、朝から仕事がある、というからその仕事の前に送ってほしいと頼んだけれど、早く着きすぎても寒いからとか、何かと言い訳をつけて、送ってくれなかった。
私は頼ることなく一人で、大きな荷物を持って注目を浴びながら移動していた。その時今日移動すると知って心配してくれた数日前にあった知り合いが、電話をしてきて、忙しい中、駅まで送ってくれた。
私は無事に自分の家までたどり着き、彼に電話をした。最初の方は、彼は私と離れて寂しがり、頻繁に電話をかけてきていた。
しかしだんだんと電話がなくなり、「会社が給料を払ってくれない、トラブルに巻き込まれた。」と連絡がきた。ブラック企業で休みの日にまで出勤を命じられていた、などと話されて、私は、私が遊びに行った時でさえも仕事をしていたことを思い出し、たしかに、そういう理由があって疲れていたの?と一応納得した。結局色々彼にアドバイスするものの、そういうことはできないと断られ、今週の食費もないから、お金だけ送ってほしいと連絡が来た。
はじめは、知り合ったばかりの彼女にそんなことを頼むなんて、しかも、そんなお金を使い切っているなんて、と思った。しかし、母親には言えない理由を並べられ、彼のバックグラウンド、昔はヤンチャ(いや、ヤンチャ以上)していたことなども聞くと、一般的な人のようにお金の使い方を知らないのかなと思った。とりあえず食べ物を送るから、と、お金ではなく食べ物を送った。
しかしすぐに、「朝から晩まで車を走らされているから、仕事をするガソリン代が買えない。」など、お金が足りない話をされた。さらに他にも「苦しめられた社員がいる噂を聞いた、今辞めたら逆に今まで会社から借りていた金額を返せと脅され続ける」など次々に理由を並べられる。とりあえず1週間あれば次の給料日まで持つだろうと、結局お金を振り込んであげた。彼はとても感謝していた。
そんなの会社から借りろ、とか、ぶっ飛んだ話だな、と思うことはあったけど、必ずしも否定はできないので、信じてあげることしかできなかった。
その後連絡がしばらく来なくなった。
そして、久しぶりに連絡が来たと思ったら、焦った声で、ヘアサロンの予約をしたがお金を忘れた、と2万円要求してきた。「ヘアサロンにしたら値段が高すぎるし、こんな時にありえない、なんでキャッシュカードだけあるの?」と思ったけど、「気持ちが落ち込んでしまって気分を変えようと思っただけなんだ。」「予約できない人気店で引き返せない。」「今日中に返すから。」など怒涛の勢いで言われ、私が「どうにかお店に頼んで後払いにしなよ。」とか、アプリなどで支払う方法を教えると、「そんな恥ずかしいことできるか!」と電話を切りそうな勢いで怒ってきた。
なんだか私は難しいことを言いすぎたのか、私が悪かったのか、などと思い始めたが、それでも彼の言っていることが本当かどうか疑いは消えなかった。結局、「カットしてかっこよくなった写真を送ってね。」と、彼と約束をし、お金を振り込んだ。彼はいつものように、とても感謝していた。
その日、彼からの入金はなかった。カット後の写真を送るという約束も、守られなかった。他にも今まで約束は何度もした気がする。彼は簡単な約束も守らなかった。
その日以降、1週間以上連絡が取れなくなった。
私は、嘘だったんだ、騙されたんだと怒りを覚えた。訴えるべきかどうか悩んだ。
しかしその後彼から連絡がきた。連絡が取れなかった事について聞くと、「急に体調が悪くなって起きれなかった。」と言った。「コロナだった。」と。
カット後の写真のことを聞くと、「もう髪のセットが取れてるから、またきれいにセットしたときに送る。」とまるで些細なことかのように言われた。何かを言うと機嫌が悪くなる彼を思い出して、私はそれ以上問い詰めなかった。
私は彼に言った。「これが最後だよ。これ以上貸して返ってこなかったら、私はもうあなたを信じられない。もう次からは、貸さないから。」
彼には、ありがとうと言われた。
その後も何週間経っても、入金はなかった。
彼に対する疑いと、どんなに疑い深い状況でも証拠がない限り信じるべきなのではないかという人を思う葛藤で、真実が分からない。
―あれから1年以上経った。
真実かどうかは置いておいて、私が相手の立場だとしたら、少なくとも、もっと相手を気遣った行動を見せる。
彼は、信頼するに、値しない。時間をかけて、私は、彼が詐欺師だと、思った。
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